解散!

 これは意外でした。――私共は家を出るとき、皆さんにキット奥様の温いお言葉を頂いて帰ると云って来たのでした。「お前等のために、この何十日ッてもの夜も満足に眠れたことがないんだ。――この恩知らず奴!」 私共は申しました。「いいえ奥様、貴女は夜もおちおち眠れないと仰言《おっしゃ》いましたが、それは然しただ眠れないだけのことでしょう。然し私共は一日一日が生きて行けるか、行けないかのことなんです。命がけのことなんです。」 だが、もう決してお前達には会わないし、云うこともきいてやらないから勝手にせ! とうとうそう云ってしまいました。――涙ながらに語った。 かくして岸野小作争議は、「社会的」に益※[#二の字点、1-2-22]深刻を極めて行くものの如くである。[#改段]

    十四

     「解散! 解散※[#感嘆符二つ、1-8-75]」

「演説会」が開かれた。健は組合の人や阿部、伴などと一緒に、劇場の裏口から入った。入口で巡査から一々懐や袂を調べられた。「よし。」そう云って背中を押す。「何が、よしだ!」――健にはグッと来た。「御苦労さんだな!」――組合員は小馬鹿にした調子を無遠慮にタタキつけて、ドンドン入って行く。 二階から表を見下すと、アーク燈のまばゆい氷のような光の下で、雪の広場はチカチカと凍てついていた。顎紐をかけた警官が、物々しく一列に延びて、入り損った聴衆を制止していた。丁度真下に、帽子の丸い上だけを見せて、点々と動いている黒い服が、クッキリ雪の広場に見えた。――所々に小競合《こぜりあい》が起って、そこだけが急に騒ぎ出して、群衆がハミ出してくる。警官が剣をおさえながら、そこへバラバラと走って行く。 二千人近くのものが帰りもしないで、ジリジリしていた。「立ち止っちゃいかん。」「固まると、いかん。」「こら、こら!」

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