「毎日毎日、一月も考えた。」

     「もう五つ――」

 争議団は小樽の労働者達に見送られて、――一ヵ月以上の「命がけ」の(伴は、あとで思い出すと、背中がゾッとする、とよく云っていた。――よくまアやってきたもんだ。)闘争の地を後にした。 あと九ツでH停車場だ!――もう七ツだ――もう五ツ――四ツ――三ツ、と、なると皆は云いようのない気持に抑えられた。近くなればなる程、小作人達はムッ[#「ムッ」に傍点]つり黙りこんできた。 ――伴の厚い、大きな肩が急に激しく揺れた。と、ワッと泣き出してしまった。雪焼けした赭黒い顔に、長い間そらなかった鬚が一面にのびていた。――伴は自分の肱に顔をあてた。そして声をかみ殺した。 嬉しかった! ただ嬉しい。それをどうすればいいか分らないのだ。 女達も思わず前掛で顔を覆ってしまった。[#改段]

    十六

     「毎日毎日、一月も考えた。」

「ねえ、健ちゃ……」 節は余程云い難いことらしかった。「……お父な、嫁にでも直く行《え》ぐんでなかったら、都会《まち》さ稼ぎに出れッてるんだども……!」 ――とうとうそう云った。「俺……俺一緒にならない。」――健は苦しかった。「…………※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」 暗かったが、節の顔が瞬間化石したように硬わばったことを健は感じた。「……考えることもあるんだ、俺小樽から帰ってから毎日毎日、一月《ひとつき》も考えた。……考えたあげく、とうとう決めることにしたんだ……俺は、旭川さ出る積りだよ。」「……何しに?」

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