東京を訪れた外国人の印象

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 これは少しく一般的なことになりすぎるが、東京を訪れた外国人の印象として大抵、事変下の帝都の有様が平常と余り変りないのを驚歎的に語ってることが報ぜられている。実際、帝都の有様は平常とさほど変ってはいない。だがそれかといって、徹底的な灯火管制でもやれというのか。酒や煙草を全廃せよとでもいうのか。全部下駄ばきにでもなれというのか。常住不断に深刻な顔をでもせよというのか。 帝都の有様は、事変下にあっても悠然としている方がよかろう。考えてみれば、大都市にあっては、直接の銃後の勤めなるものが存在し難い。如何に精神を緊張さしても、各自の日常の仕事に精励する以外、直接には、消費面の節約以外に為すべきことが見出し難い。農村にあっては、出征者が最も強力な勤労者であり、出征者のある家の仕事を、皆で相寄って為してやるのを第一として、さまざまの直接な勤めが見出される。然るに大都市では、オフィスの勤務など屋内的なことばかりで、それも補充人員には不足はなく、為すべき仕事が見出し難いのである。而も軍需工業の濡いは都会に氾濫して、花柳界は賑い、箱根や熱海の旅館は満員とくる。 帝都で直接的な仕事を最も持たない青年学生が、休暇の間に地方農村に散らばって、そこで何を感得して戻ってくるか、そしてそれがどういう風に帝都の空気に影響するか、或は何等の影響をも与えないほど無力であるか、これこそ問題にしてよかろう。風俗の問題は、結局精神風景の問題である。

— posted by id at 01:08 pm  

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